*--野平 照雄の雑記帳--*


山のおじゃまむし(8)の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃまむし(7)の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃま虫(6)の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃま虫(5)の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃま虫(4)の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃま虫の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃま虫の掲載  2005/11/07(月)
山のおじゃまむしの掲載  2005/11/07(月)


山のおじゃまむし(8)の掲載

山のおじゃまむし(8) 
シャネルの香水、マイマイガ

もし、この世から男性がいなくなったらどうなるであろうか。恋や愛のない味気ない世となるだけでなく、間違いなく人類は滅びてしまうであろう。ところが、昆虫の中にはオスがいなくてもメスだけで子孫を残していく種がいるのだ。「メスだけで増える。そんな馬鹿な。」などと言って信用しない人もいるであろう。しかし、本当の話なのだ。しかも、こうした種の中には多くのおじゃま虫が含まれているのだ。その代表的なものといえば、いろいろな樹木の葉を食べるマイマイガであろう。
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マイマイガは時々大発生して大きな被害を及ぼす。何しろ植物なら何でも食べるという幼虫。一旦発生すると思いがけない所にまで被害が及ぶ。20数年前、白川村でこのおじゃま虫が大発生した。この時の披害はひどく、山の木はいうに及ばず、庭木、農作物、場所によっては稲まで食害された。しかも悪いことに、成虫の体や幼虫の毛には毒があるときている。このため、体に湿疹やかゆみを起こすなどの人が多く出て大騒ぎになった。山ならぬ家のおじゃま虫にもなったわけである。マイマイガは普通結婚して卵を産む。ところがどうしたわけか、時々オスがいるにもかかわらずメスだけで卵を産むようになる。要するに男嫌いになるのである。何とも不思議なことであるが、皮肉にもこうした時に大発生するのである。しかも、大発生は10年に1回くらいの割合で起こっているのである。そういえばここ7〜8年は発生していない。ということはあと2〜3年のうちに発生‥…。いやよそう,こんな予測は。
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マイマイガの語源は“舞い舞い蛾”からきている。つまりヒラヒラと飛び回るからである。ところが、飛び回るのはオスばかりでメスはほとんど飛ばないのである。これが、大発生した場合はオス以上に飛び回るようになるから不思議である。いったいこの虫の体の構造はどうなっているのかと思ってしまう。私自身、白川村でメスの飛んでいるのを何回も見ているので、てっきりメスも飛ぶものと思っていたくらいである。しかし、大発生以外はほとんど飛ぶことなく羽化したあたりで産卵する。このためメスは日没ころになると羽を動かしてフェロモンを発散し、オスをおびき寄せて結婚する。つまり、マイマイガのメスが強力なフェロモンを出すことと、オスがよく飛び回ることから、メスがわざわざ結婚相手をさがす必要がないのである。要するに無駄なエネルギーは使わないわけだ。
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以前、私はマイマイガのフェロモンの入った瓶をポケットに入れていて、破損させたことがある。すると、どこからともなくマイマイガのオスが多数集まってきて、私にまとわりついた。このため、この虫の毒粉で目がかぶれて炎症を起こし、病院へ行ったという苦い経験がある。そういえば、人間様でもメス(失礼)の中には強力なフェロモンを発しているものがかなりいる。しかし、その割にはマイマイガのようにオスは寄り付かないようだ。やはり、高価なシャネルの香水でもフェロモンもどきは、どこまでももどきにすぎないようである
(昭和63年11月)

Date: 2005/11/07(月) No.13


山のおじゃまむし(7)の掲載

山のおじゃまむし(7) 
生きた肥料製造者、マツカレハ

古くから松毛虫と呼ばれている松林のおじゃま虫がいる。マツカレハだ。時々大発生して松葉を食害し、時には丸坊主にしてしまう。この光景を見る限り誰もが悪い虫だと思うであろう。しかし、こうした被害はごく稀で、ほとんどの場合見過ごされてしまう。元来、マツカレハの食害はこの程度なのである。それでも、この虫は目がたきにしなければならないようなおじゃま虫なのだろうか。
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幼虫の食欲はたしかにすごい。1匹で1000本以上の松葉を食べる。これを長さにすれば80mだ。幼虫は大きくても7〜8cm。小さな体でよくこんなにも食べるものである。そのうえ食べ方が贅沢だ。松葉の半分は噛みきって捨て、その残りの部分を食べる。だから、実際には2000本もの松葉を松から取ってしまうのである。ところがこの幼虫、食べるのは専ら古い葉で、光合成を行っている新しい葉にはほとんど寄りつかない。従って、マツカレハの食害は松の生育にほとんど影響しないのである。それにもうひとつ。この幼虫の排出する糞には肥料成分のリンが含まれているのだ。これが松の根元に落ちれば当然肥料となる。つまり、マツカレハは松にとってあまり必要でない古い葉を食べ、これを松に利用しやすい肥料入りの糞として提供しているのである。わかりやすくいえば生きた肥料製造者なのである。マツカレハと松。一見加害者と被害者に見えるが、私にはむしろこの両者が助け合って生活しているように思えてならない。
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しかし、マツカレハも生き物だ。古い葉を餌としているとはいえ、餌不足になれば新しい葉も食べる。こうなれば明らかに害虫だ。ということは、マツカレハが害虫になるかならないかを決定する鍵は、餌が豊富にあるかないかということになる。っまり、幼虫が異常に増えて餌不足になれば害虫で、そうでない時は有用昆虫なのだ。ある時は害虫で、ある時は有用昆虫。二つの顔をもつマツカレハを思い浮かべていたら、以前読んだ「ジキルとハイド」が脳裏をかすめていった。
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とはいうものの私自身、この使い分けがなかなか出来ない。昨年、わが家の松にこのおじゃま虫が寄りついた。数が少なかったので、この程度なら有用昆虫として働く。こう思っていたにもかかわらず、早々に退治してしまった。やはり、マツカレハは害虫という先入観が働いてしまったようだ。私は、いままでに数えきれないくらいマツカレハの防除相談を受けてきた。時には名医きどりでわざわざ出向いて診断したこともあった。しかし、はとんどの場合マツカレハの生態を説明することなく、ただ薬剤による早期駆除を指導してきた。いま思えば、名医どころかとんだヤプ医者だったと反省している。
(昭和63年8月)

Date: 2005/11/07(月) No.12


山のおじゃま虫(6)の掲載

山のおじゃまむし(6)  
松葉の住人、マツバノタマバエ

あと1ヶ月で未来博が始まる。未来。いい言葉だ。夢がある。しかも大きな希望をもたせる夢だ。しかし、この逆の場合もある。私はかつて、今は発生していないが、いずれ(未来)本県でも問題になるだろうと心配したおじゃま虫がいる。マツバノタマバエだ。多少こじつけのきらいはあるが、今回は未来博にちなんで私にとって印象深い“未来の虫?”マツバノタマバエについて話そう。
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マツバノタマバエはその名のとおり松類の害虫だ。成虫はヤブカを小さくしたような姿で大きさは2mm。幼虫は黄色っぽい橙色のウジで、大きさは3mmと、とにかく小さい。だから、この虫を見たものはいないと思う。私自身、野外では成虫を見たことがない。それに生活史が変わっているからよけいお目にかかれない。幼虫はあの細い松葉の中に5〜6匹も潜り込んで生活しているのだ。しかも、幼虫は松葉の養分を吸収する。このため、松葉の付け根部が大きく膨らむので、誰にでもよくわかるようになる。秋になると幼虫は松葉から出て地上に降り、土の中で冬を越す。そして翌春、暖かくなると蛹から成虫となって野外へ飛び出ていく。松葉の中から土の中、そして地上へと目まぐるしく変わる環境で生きてきたこのおじゃま虫も、寿命はわずか数日。はかない命だ.
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マツバノタマバエは北海道以外どこにもいる。しかし、どうしたわけか本県では全く見られなかった。ところが昭和58年、土岐市で発生した。そして、これを皮切りに県下各地で見られるようになった。長野、愛知等近県ではずっと前から問題になっていたのに、なぜ本県だけ発生しなかったのか。この虫の習性を知っている私には不思議に思えてならない。この被害は葉が枯れて赤くなる。だからマツノザイセンチュウ被害と間違えてしまう。現に私自身、土岐市で発生した被害を間違えてしまうところだった。それは、30haもの松林が一斉に赤くなったため、てっきり松くい虫被害と思い込んでしまったからである。こうしたことから、案外この被害は松くい虫披害と混同されているのかも知れない。最近、この被害が庭木にも見られるようになった。ご承知のように庭木の役割は美観によって、生活に潤いを与えてくれることである。その松が赤くなったらどうなるか。立派な庭であればあるほどダメージの大きいことは今更いうまでもないだろう。山のおじゃま虫から庭のおじゃま虫。この虫はひょっとしたらこうした道のりを歩むのかも知れない。
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この被害を防ぐにはどうするか。長い間各地で調べられてきた。しかし、松葉の中に潜り込んでいる幼虫に対し、上から薬剤をまいただけではなかなか死なない。そこで考えられたのが、この虫の習性を利用した防除だ。つまり、幼虫が地上に降りる時か、成虫が野外へ飛び立つ直前に地上部へダイアジノン徴粒剤をまいておくことだ。こうすれば幼、成虫はいや応なしに薬剤に触れて死亡する。実にうまい防除だと感心する。害虫防除には習性を利用するのが鉄則だ。このことからすれば、この防除はまさに防除の見本であろう。本県ではこの被害が発生した都度、適切な防除が行われてきた。このため、現在大きな被害は発
生していない。つまり防除に成功したわけだ。そうそう、成功といえば未来博是。非成功してほしいものだ。
(昭和63年6月)
Date: 2005/11/07(月) No.11


山のおじゃま虫(5)の掲載

山のおじゃまむし(5) 
本当に害虫か、松くい虫

松くい虫といえばチョウ、ハチ、セミ、トンボなどとともに日常生活でもよく使われている昆虫用語である。恐らく大の虫嫌いでも一度は口にしたことがあるのではないかと思う。また、この虫については誰しもが悪い虫という。それでいて、この虫の姿、形を知っている人は非常に少ない。言いかたを変えれば正体不明の悪い虫。松くい虫とはこんな言葉がよく似合う虫かもしれない。
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松くい虫。わかりやすくいえば松の幹の中を加害する昆虫類のことである。だからいろいろな虫が含まれている。カミキリムシ、ゾウムシ、キクイムシ、ぎっと数えただけでもゆうに百種を超える。それくらい多いのである。松くい虫は松の枯木に寄生する。いや、枯木にしか寄生できないのだ。つまり、生木に寄生しても松ヤニに巻かれてしまい生きていけないからである。それが、何かの拍子で数が多くなる。すると不思議なことに、それまで枯木でしか生活できなかったのが、急に生木をも加害するようになる。これで松が次々と枯れていく。かつてはこのメカニズムで松が枯れると間違って信じられていた。数が少なければヤニに巻かれてしまうが、多くなればこうしたことは起こらないとは、考えればおかしな話である。このことを私自身も長い間信じていたから、知らないとはおそろしいことである。ご承知のように、松枯れはマツノザイセンチュウとマツノマダラカミキリによって引き起こされることが究明された。だから、この時点から私はマツノマダラカミキリを松くい虫と呼んだ方がすっきりすると思っている。しかし、長い間口にしてきた言葉は簡単には変わらない。私自身、つい松くい虫と言ってしまう。
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今、1本の松が枯れたとしよう。どんなドラマが展開されるであろうか。まず、ここに松くい虫が集まってくる。そしてオスとメスが巡り会いここで結婚する。ついで産卵。ここで興味深いのは種ごとに産卵場所が決まっていることである。根元部にはクロカミキリ、マツアナアキゾウムシ、樹皮の厚い所にはシラホシゾウムシ、そして樹皮が薄くなるにしたがいマツノマダラカミキリ、キボシゾウムシ、キイロコキクイとまるで約束してあるかのように見事に区別されている。これがどの松でも同じであるから驚きだ。ときどき産卵場所を間違うアホ虫もいる。しかし、こうした場合ほとんどのものは他の松くい虫との生存競争に敗れて死亡してしまう。やはりどこの世界でも掟を破ると良いことはないようである。松くい虫が増えてくると餌不足になる。下手をすると共倒れの恐れがある。しかし、自然はうまくできている。天敵といわれる捕食虫の出現だ。オオコクヌストとカツコウムシ。ともに凶暴だ。彼らは種を選ばず手あたり次第攻撃する。しかも大食漢ときている。1匹で数10頭もの幼虫を食べてしまう。これが結果的には生息密度のコントロールを行っていることになる。うまい仕組みだ。
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松くい虫は長い間松を枯らす大書虫として目がたきにされてきた。確かにマツノマダラカミキリは悪い虫である。しかし、他の松くい虫はどうであろうか。今、松くい虫がいなくなったとする。恐らく枯れた松はいつまでも残っているであろう。となると枯れた松をはやく自然に戻してくれる松くい虫はむしろ有用昆虫ではないか。ふと、こんなことを思ってしまった。
(昭和63年5月)

Date: 2005/11/07(月) No.10


山のおじゃま虫(4)の掲載

山のおじゃまむし(4) 
鮭に似た虫、スギノアカネトラカミキリ

スギノアカネトラカミキリをご存知でしょうか。恐らく名前すら聞いたことのない人が多いのではないかと思う。しかし、古くからスギ、ヒノキ材に「飛び腐れ病」あるいは「枝虫害」と呼ばれている正体不明の被害を引き起こす犯人であるといえば、姿を見なくても、どういう虫かは想像がつくであろう。いうまでもなく、この虫に加害されると材価は著しく低下する。しかも、この披害は伐採して初めて気づくので、この時点ではもう手遅れなのである。たちが悪いというか始末が悪いというか、とにかく困ったスギ、ヒノキ林のおじやま虫なのである。ところがこの虫の被害、古くから知られている割には被害報告が少ない。これは、悪い評判がたつのを恐れて被害を隠すという悪習が各地に残っているからである。しかし、このことが結果的にはスギノアカネトラカミキリを保護していることになっているのである。この被害を防ぐには、まず悪習をたことが先決問題なのである。
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スギノアカネトラカミキリは花がなくては生活できない。花粉や花蜜は大切な食料であるし、また花上はオスとメスが巡り会い結婚する碍所でもある。ところが集まる花は白い花に限られ、赤や青には見向きもしないから不思議だ。ある研究所ではこの性質を利用して、この虫をおびき寄せようと数万円を投じて本物によく似た白い造花を作り、これを林内に置いてみた。しかし、これに騙されるようなアホ虫は1匹もいなかった。 どうもこの虫に対しては擬餌で魚を釣るような訳にはいかないようである。また、この虫のメスは不特定多数の男性と何回も結婚する。しかも2〜3日おきにするのだから驚きだ。スギカミキリのように貞淑な妻とはいかないようであるが、何回も結婚しないと卵が産めないこの虫の体構造からすれば当然の行為なのかもしれない。この虫の結婚話についてもう一つ。これによく似た虫でトガリバアカネトラカミキリというのがいる。ちょうど人間とチンノヾンジーの関係だと思ってもらえばよい。 ところが、この両者が時には結婚するのだからさらに驚きだ。どういうことで気持ちがつうじたのかは知らないが、われわれの世界ではとても考えられないことである。
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成虫は枯れ枝に卵を産む。生まれた幼虫は誰に教わることもなく幹へ移動し、ここを加害して大きくなる。そして再び生まれ故郷の枯れ枝へ戻り、ここで蛹から成虫になる。ちょうど海にいる鮭に似ているので、さしずめこの虫は木の鮭といったところか。ところが、時には幹に移っている問に枯れ枝が落ちたり落とされたりして故郷へ戻れないことがある。普通、自分の生活場所を奪われると生きていけないものであるが、この虫はこうしたアクシデントがあっても急きょ節の部分を枯れ枝がわりにしてしまう。順応力があるというのか適応性が強いのか、とこかく生活力の強い虫である。
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この被害を防ぐには、とにかく枯れ枝を浅残さないこと。このひと言につきる。このためには技打ち行うことである。このようにこの虫に対しては防除技術がはっきりしているので、今後は披害を隠すという悪習をやめて積極的に防除対策に取り組むべきである。特に、この被害はスギやヒノキを長い年月をかけて育ててきただけに、そのショックは計り知れないものがある。“九仞の功を一簣に虧く’という諺があるので、やはりこの被害の恐ろしさを認識して日頃から注意しておくべきであろう。
(昭和63年3月)
Date: 2005/11/07(月) No.9


山のおじゃま虫の掲載

山のおじゃまむし(3) 
飛んだ!、スギカミキリ

スギ、ヒノキ林にもいろいろなおじゃま虫がいる。しかし、なんといっても代表格はスギカミキリであろう。ご承知のとおり、スギカミキリは専ら生きたスギ、ヒノキを加害する。このため、木は枯れるし、また、例え枯れなくても商品価値は著しく低下する。スギ、ヒノキと言えば林業を支える大事な樹木である。これを加害するのだから、スギカミキリこそおじゃま虫中のおじゃま虫であろう。ところが、このおじゃま虫、以前は害虫というよりむしろ個体数の少ない珍しい種であった。しかも、マニアの間ではかなりの値で売買されていたというから夢のような話である。それなのになぜこんなに増えてきたのか。それは、スギカミキリの主食であるスギ、ヒノキが各地に多数植栽されたからである。餌が豊富になれば個体数が増える。前号で紹介したマツノマダラカミキリ同様、ここでも自然の原理が働いているのである。
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スギカミキリは寒さに強い。冷蔵庫に2カ月聞入れておいても死なないし、また、−20℃以上の寒さにも耐えられる。数年前、3月末に大寒波がきた。この時ある人から「この寒さでスギカミキリが死んでしまうのではないか」と質問された。私は「とても、とても」と答えた。もしこの程度の寒さで死亡するのであれば、この世にスギカミキリはいないであろう。また、スギカミキリはスタミナも抜群である。3月末から発生する成虫は約1カ月問生きているが、この間、時々水をなめるだけである。このわずかなエネルギーでオスはメスを求めて歩き回り、またメスは卵を産み続けるのだから驚きだ。とくに、オスはメスに出会えば必ずプロポーズをし、1日に何人もの彼女をものにすることがある。“運がいいな”とうらやましがる前に、よくそれだけのスタミナがあるものだと感心してしまう。なお、このおじゃま虫、メスは一度結婚すると男嫌いになるが、オスはいつまでもメスを追い求める。どこの世界も同じである。
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最近、スギカミキリにとって頭の痛い問題が起きてきた。それは人間様がスギカミキリを退治するために、捕獲バンドというすばらしい器具を開発したからである。これがあちこちのスギ、ヒノキ休に巻かれてあるため、スギカミキリはついこの中に入ってしまう。入ったら最後地獄行きとなるので、スギカミキリにとってはまさに鬼門である。捕獲バンドはスギカミキリが物陰に潜むという性質を利用して作られたものである。スギカミキリ自身、まさかこんな目にあおうとは思ってもいなかっただろうし、しかも突然のことなので今後どうすればよいか頭の痛いことであろう。
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ところで、このスギカミキリ、長い間飛ぶか飛ばないかで意見が分かれていた。私自身もいろいろ試みたものの、飛ぶ姿を見ることができなかった。こうした実験を繰り返している時、NHKテレビがスギカミキリの特集番組を作るの取材にきた。もちろん主人公はスギカミキリなので強烈なスポットライトが当てられた。すると、驚いたことにあれほど羽を開かなかったスギカミキリがものすごい勢いで飛び立っていったのである。このことがきっかけで、スギカミキリは温度差の大きい時によく飛び回ることがわかったのである。よく筋書きのないドラマと言われるが、どうも研究分野にもこの言妻が当てはまるようである。
(昭和63年1月)
Date: 2005/11/07(月) No.8


山のおじゃま虫の掲載
山のおじゃま虫 (2)  
劇的な出会い、マツノマダラカミキリ

昆虫類にも劇的な出会いがあるものである。もし、マツノマダラカミキリがマツノザイセンチュウに出会わなかったらどうなっていただろうか。恐らく現在の松枯れ被害は発生しなかっただろうし、カミキリ自身も山のおじゃま虫という悪いレッテルを貼られなかったはずである。そもそも、マツノマダラカミキリは松林でほそぼそと暮らしている、ごく平凡な昆虫であったった。それが、アメリカから侵入してきた線虫に出会ってからは松を枯らす線虫の運び屋、あるいは松枯れの共犯者として目がたきにされるようになってしまった。線虫と出会ったために山のおじゃま虫とされたマツノマダラカミキリは、この点ては不幸な虫かも知れない。
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しかし、線虫との出会いはマツノマダラカミキリにとって大きなプラスであった。それまで、自分の主食である松の枯木をさがすのに四苦八苦していたのが、一転して餌事情がよくなり、何不自由なく生活できるようになったからである。飢餓から飽食。例えは悪いかも知れないが、これほど生活環境が変わった昆虫はいないであろう。マツノマダラカミキリと繚虫の出会い。シナリオでも書くことのできない、まさに劇的な出会いである,
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1匹のマツノマダラカミキリは多いもので30万頭、平均すると1万5千頭もの線虫を体内に入れ、これを20〜50頭ずつ、約3ヶ月問にわたってほうぼうの松にばらまいていく。例えば30頭ずつ線虫をばらまいていったとすると、1匹のカミキリで500本もの松を枯らすことになる。そして、この枯れた松で育ったカミキリか200個ずつ卵を産めばどういうことになるか、容易に想像かつくであろう。
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マツノマダラカミキリにもいろいろな天敵がいる。寄生蜂、捕食虫、病菌等その数は100種以上にも及ぶ。このため、カミキリが100個卵を産んでも、成虫になるのは20匹前後にすぎない。しかし、これほど厳しい条件下でも、松枯れ被害は増加しているのだから、いかに生息数が多いかよくわかるであろう。普通、自然界では特定の昆虫か異常に増えても必ずこれを抑える天敵が発生して、うまくバランスが保たれる仕組みになっている。しかしこの虫にとっては別で、とても自然の力では抑制できそうもない。このため、われわれの力でカミキリの発生を阻止して松を保護しなければならない。人間が攻め勝つか、マツノマダラカミキリが防戦するか。今まさに戦いの最中である。
(昭和62年12月)

Date: 2005/11/07(月) No.7


山のおじゃまむしの掲載

山のおじゃま虫 (1) 
松を枯らす虫、マツノザイセンチュウ

人間の世界では、用のないものはじゃま者として扱われる。これが虫ならばさしずめじゃま虫であろうか。しかし、これでは少々語呂が悪いので、筆者は上品におじゃま虫と呼ぶことにする。現在、山のおじゃま虫で最もたちの悪いのは、松を枯らすマツノザイセンチュウであろう。岐阜県では昨年、この虫によって32,000屬両召枯れているが、これは木造家屋(83屐25坪)1,800戸分にも当たる莫大な量である。これが日本全国となると71,000戸分にも達する。これは人口30万内外の都市の全家屋が1年間で消失していることになるので、まったく恐ろしい話である。マツノザイセンチュウは体長1个燭蕕困両さな虫(線虫)である。この小さな虫が大きな松を次から次へと括らしていくのだから、全く不思議である。
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このおじゃま虫は松の樹体内を住み家とし、細胞組織を食べて生活している。繁殖力は旺盛で、わずか4〜5日で卵から成虫になってしまう。これが次々と増えていくのだから、細胞組織はあっという問に破壊され、松はたちどころに枯れてしまう。しかも、大きな松、小さな松に関係なく枯れてしまうから全く始末が悪い。
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松を枯らすこの虫にも悩みがある。それは、自分自身では、松から松へと移っていけないことである。このため、マツノマダラカミキリを飛行機がわりにして移動している。つまり、マツノマダラカミキリの体内に入り込んでおいて、カミキリが松枝をかじるとき、この噛み跡から松へ移っていくわけである。この段階では、マツノザイセンチュウは非常にセコい虫に見える。しかし、センチュウが松を枯らすことによってマツノマダラカミキリに産卵場所を与えてやることになり、運び屋にとっても誠に有難い話なのである。従って、この両者は持ちつ持たれつの生活、いわゆる共同生活をしているわけである。言いかえれば、一方が欠けると両者の生活が成り立たないいわば運命共同体のようなもので、人間の世界では想像もつかないドラマが展開されているのである。
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時には、この山のおじゃま虫が庭のおじゃま虫にもなるのでさらにたちが悪い。樹齢数年の老松やうん百万円もする貴重な松、さらにはゴルフ場の大事な松を答赦なく枯らしてしまい、造園関係者から憎い奴と目がたきにされている。山のおじやま虫がなぜ庭木の松にまで入り込むのか。これは、運び屋であるマツノマダラカミキリが非常にすう光性の強い昆虫だからである。夜、光を求めて飛び立ったカミキリが明りのついている家があるとそこへ向かっていく。たまたまそこに松があると噛じられるという次第。明りを消しておくわけにもいかず、こうなると全く運が悪かったとしか言いようのない泣くに泣けない話である。マツノザイセンチュウはアメリカから上陸したことが確認されている。しかし、そのアメリカでははとんど被害が発生していない。疫病は風土を異にしたところに入ると恐ろしい力を発揮することが多い。従って、今度は日本のザイセンチュウを外国に絶対出さないようにしなければならない。
(昭和62年11月)

Date: 2005/11/07(月) No.6


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