*--野平 照雄の雑記帳--*


山のおじゃまむし(16)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(15)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(14)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(13)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(12)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(11)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(10)  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(9)の掲載  2005/11/07(月)


山のおじゃまむし(16)の掲載

山のおじゃまむし(16)  
クリにサクランボ、クリタマバチ

もう、だいぶ前のことである。若い女性から電話があった。裏山のクリにサクランボがなったが、食べられるでしょうかという問い合せである。クリにサクランボ。絵にかいたのならともかく、現実にはありえっこない。それは何かの間違いでしょうと、まるで一笑に付すような態度で電話を切った。それから数日後、ふと思った。もしやあれはクリクマバチではなかったかと。というのはクリクマバチに寄生されるとクリはその部位が赤くなって膨れ、人によってはサクランボにみえるからである。もし、そうだとすればこのサクランボ、食べられるどころか逆にクリを食べて(枯らす)しまうクリタマバチのマンションなのである。
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このマンションが要注意だ。中には1〜2匹、多いときには6〜7匹の住人(幼虫)がいる。これが大変なワルで、大家(クリの木)から養分を吸収して生活する。このため、大家の財産は食い潰され、挙げ句の果てが倒産(枯死)する。かつて、この光景が各地で見られた。この結果、野性の柴クリが壊滅的な披害を受け、ほとんど見られなくなってしまった。そういえば私自身にも思い出がある。中学生の頃、学校近くに大きなクリの木があり、秋にはこの木の下でクリ拾いをしたものだ。それが、いつしか無くなってしまった。今思えばこのクリにもサクランボがたくさん着いていたので、恐らくこのワルの仕業であろう。クリクマバチは3mmにも満たない小さな虫だ。それが、日本のクリを征服したのだから、そのパワーには全く驚いてしまう。ところが、最近、山に再びクリが見られるようになってきた。クリタマバチに負けない強い奴だ。うまくいけばこの子孫が増え、昔の姿にもどるかも知れない。「うさぎ追いしかの山‥…‥」。かつて、クリ拾いに興じたころ唄った童謡が頭をよぎる。しかし、現実は厳しい。クリクマバチは今まで以上に攻撃してくるだろう。どちらが勝つか。この力くらべに興味がもたれる。
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クリクマバチは不思議な虫だ。まず、オスがいないこと。産れてくる子はすべてメス。そして、このメスの子もまた次の子もすべてメスなのである。これが人間様の世界だったら………、愛、恋、好き、嫌いなどの愛言葉のない味気ない日々となるであろう。それにこの虫、昔からいたものではない。ある日(50年前)突然現れ、アッという問に広がった新参者なのである。それなのに、この虫のルーツは未だ謎に包まれている。もともといたのか、あるいはよそから来たのか。こんな思いをはせると、私の胸は一層熱くなる。
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クリにサクランボ。何とユニークな言葉だろう。こんな表現を使ったあの女性はきっと心の豊かな人であったに違いない。それに対し、私の冷たい言葉。今思うと胸が痛む。しかし、電話は1回きり。弁解する機会もなく今日に至った。あの女性は怒っているだろうか。こんなことを思う反面、あの女性ももう40半ばのオバタリアン。怒られてもいいやと、わるい心がつい頭をだしてしまう。
(平成2年7月)

Date: 2006/01/06(金) No.23


山のおじゃまむし(15)の掲載

山のおじゃまむし(15) 
女つくりの名人、スギタマバエ

世の移り変わりは激しい。虫の世界も同様で、かつて猛威をふるったおじゃま虫も、今では忘れられようとしているものがいる。例えば、スギタマバエ。この虫などは代表的なものであろう。もう20数年も前になるであろうか。このおじゃま虫はどこへいっても話題の種で、それこそおじゃま虫中のおじゃま虫であった。このお陰で随分頭を痛め、悩み、悪戟苦闘したものだ。それが今はそのけはいが全くないのだから夢みたいである。
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スギタマバエの幼虫はスギの針葉内から土中へと渡り歩いて生活する。だから、娑婆の空気はほとんど吸わない。吸うのは成虫期のわずか4〜5日である。しかし、娑婆に出たといっても1mm前後の小さな虫。我々にはとても見ることができない。しかし、いたという証は随所にみられる。例えば針葉。幼虫に養分を吸い取られた針葉は痩せ細るどころか、逆に膨れて太くなる。そのうえ枯死して変色するから誰にでもわかる。これがあちこちのスギ林で見られるから、いやおうなしに目に入る。こうなると大変だ。必ず防除の要請が殺到する。しかし、画期的な技術もないし妙案も浮かばない。どうするこうするといっているうちに何となく過ぎてしまった。助かったというのが本音であるが、それにしてもこれで過ぎていったのだからよき時代であったと思う。
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このおじゃま虫は女つくりの名人だ。生まれてくる子の8割は雌で、雄は本当に少ない。娘3人の子持ちの親である私には、何と甲斐性のない虫程度にしか思えないが、娘を願っている御方様にはさぞ羨ましい話であろう。8対2。単純に考えれば1匹の雄が4匹の雌を相手にしなければならない。いいなぁ−なんて思うのは罰当たりで、これはこの虫の寿命が4〜5日なので、わずかの期間に出来るだけたくさんの子孫が残せるようにと、神様が授けた素晴らしい贈り物なのである。ところで、人間様の世界では男が強いと女が産まれるという。自分をあてはめると必ずしもそうだとは思えないが、もしこれが昆虫でも同じだとすると、この虫はすごく強いなぁ−とやっぱり罰当たりなことを想像してしまう。
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以前、この被害を受けたスギの年輪幅を測ったことがある。大変生長のよいスギで毎年6〜7mmも伸びていた。これが被害をうけた年から急にダウンして2mm前後。しかもこれが5〜6年も続いていた。この差があまりにもはっきりしていたので、悪い虫だなぁ−と思ったものだ。それが今、こうした目の細かいスギが高く売れる。となれば、退治するどころか逆にこの虫を大量に飼育してばらまいたらどうか。そうなると‥・。山のおじゃま虫訂正版、“スギの救世主スギタマバエ”。こんなタイトルが頭をよぎった。
(平成2年5月)

Date: 2006/01/06(金) No.22


山のおじゃまむし(14)の掲載

山のおじゃまむし(14) 
スギの栄養分を吸いとる、スギハダニ

ダニ。漢字で書くと壁忌。この言葉を聞いて胸がわくわくする人が何人いるであろうか。まずいないであろう。むしろ、嫌な顔をする人が多いと思う。「あいつは街のダニだ」とか「ダニのような奴」など、ダニ言葉には悪いイメージのものばかりが目立つ。たしかに、ダニは悪い虫だ。いや悪い虫もいるのだ。ダニの仲間は地球上のほぼ全域に生息し、その数は無限に近い。しかし、悪いのはほんの一部で、あとは我々の生活には何ら影響を及ぼさない。それどころか、中には有益なものさえいるのだ。それなのにすごく嫌われる。これは、その一部のダニが人畜どころか農作物にまで大きな被害を及ぼすからである。このうち樹木の悪ダニは何といってもスギハダニであろう。
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もし、赤ん坊の体に何百万ものノミやシラミが群がり、血を吸い続けたらどうなるであろうか。痒い。それだけならまだしも、下手をすると死んでしまうであろう。例えは悪いがスギハダニの被害は丁度こんな具合なのだ。だから、被害を受けたスギはあっという間に赤くなる。これが大発生すると夏だというのに一足早い晩秋となる。スギハダニは1mmにも満たない小さな虫だ。それがこんなにしてしまうのだから、その力には全く驚かされる。しかし、スギも強い。こんなになっても、まず枯れることはない。それどころか、いじめられているうちに免疫ができ、そのうちにスギハダニの方がいなくなってしまう。いうなれば自然治癒だ。だからスギハダニ防除は何もしないこと。私はいつからともなくこう指導している。
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スギハダニを顕微鏡で見てみよう。まず、目につくのが大きな腹と小さな頭、それに体に生えているまばらな毛だろう。そして、よく見ると足もある。8本足だ。体の割には長いのが特徴だ。羽はどう見てもない。だから飛べないだろうと誰でも察しがつく。まあ、ぎっとこんな具合だ。それに、顕微鏡で眺める彼らの世界は神秘的だ。交尾、産卵、脱皮、それに外敵との戦い、そのひとつひとつが興味深い。ところが、最近とんと目が衰え見づらくなった。小さな虫になればなるほど見づらくなった。小さな虫になればなるほど見にくい。顕微鏡で仕事をしているものの宿命とはいえ、何となく寂しさを感じる。
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以前、私はスギハダニの密度推定を行ったことがある。研究とはいうものの白い紙の上にスギハダ二を叩き落として数を調べるというおかしな仕事だ。こんなことばかりしているのだから、普通の人は変なことをしていると思うであろう。ちょうどこの頃、今の女房と知り合った。純情可憐?な彼女は私の仕事の内容を聞いてきた。きっと結婚する判断材料にしたかったのであろう。私は言いたくなかったけど仕方なしに話した。決裂かなー、そう思ったもののどうにかゴールイン。それから18年。この間、私は満足できる仕事をしたしそれなりの評価を得たと思っている。とはいうものの、これは虫中心の仕事に理解を示してくれた女房がいたからだと思っている。しかし、内心では感謝しているものの未だ口にしたことはない。スギの栄養分を容赦なしに吸い取るスギハダニと同様、私は案外薄情人間なのかも知れない。
(平成2年2月)

Date: 2006/01/06(金) No.21


山のおじゃまむし(13)の掲載
山のおじゃまむし(13) 
オオスジコガネによく似たスジコガネ

今、ここにスジコガネと前にお話したオオスジコガネがいたとしよう。これを、本紙愛読者の中で何人区別できるであろうか。恐らく数人程度であろう。それくらいよく似ているのだ。これらのコガネムシにはその名のとおり背中の翅に数本のスジがある。別にどうってことのないスジであるが、これが種を見分けるキーポイントなのだ。つまり、スジとスジの問に光沢があるのがオオスジコガネで、ないのがスジコガネなのである。これだけの違いで他人同士なのだから納得できない人もいるであろう。しかし事実なのだ。だって、結婚しても子供ができないのだから。
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スジコガネもオオスジコガネと同様、時々大発生して大きな被害を及ぼす。成虫はスギ、ヒノキ、モミ等の針葉樹を食べ、幼虫はこれらの根を食害する。幼・成虫とも食べることにかけては貴欲で、大発生した時の成虫は一夜にして大きなモミの木を丸坊主にしてしまう。この光景があまりにも強烈なので必ず大騒ぎになる。しかし、これだけ食べられても枯れることはないので、まだ救われるが問題は幼虫の食害だ。数年前、関市の新植造林地に大発生した。その被害は凄惨なもので春に植えたヒノキが夏にはまっかっか−。掘り起こすとどれも根無し。それも主根郡まで食べられているという有様。苦労して植えた人の気持ちを思うと本当に胸が痛む。これがいつともなく大発生するのだから困った山のおじゃま虫である。
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スジコガネには私自身苦い経験が2つある。その1つ、だいぶ前のことであるが当センターにある松の先端部が枯れたことがある。よく見るとそこに虫の食べた跡があり、当時の状況からして、てっきりマツノマダラカミキリによるものと判断した。私は総務課長に、“この松は枯れますよ”と他人事のように言った。課長は落胆されたがそれでも何とか助ける方法がないかと言われた。私は薄情にも無理ですと冷たい返事をした。しかし、いつまでたっても松は枯れない。ひょっとしたら私の間違いではないか。少々不安になったので調べなおしたら、スジコガネによる加害であった。明らかに私の診断ミスであったが、はっきり枯れるといった手前、何となくこのミスが言いずらく、ついつい言いそびれてしまった。そのうちに課長が転勤されたため、このことはうやむやになってしまった。内心喜んだものの、その代償として心に大きな傷がついてしまった。2つ目。私が指導していた学生が名前を教えてほしいといって、コガネムシの幼虫を持ってきた。下品な話だけど、コガネムシの幼虫は尻の穴とそのまわりにある毛の数と並びぐわいで種を区別する。このため、種を見分けるのは非常に難しく、私自身もはっきりいって自信がない。しかし、先生と呼ばれているからにはプライドがある。多分これだろうと思ってドウガネブイブイと答えた。しかし、成虫になったのはスジコガネであった。弘法も筆を誤ることがある。こういって弁解したものの、何となく後味が悪かった。
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スジコガネとオオスジコガネは人間とチンパンジーのような間柄だ。ところが、これらを一緒にさせると結婚するのだから虫の世界は不思議だ。しかし、子供は生まれない。もし、自然界でもこのことが頻繁に起こっているのであれば、これらの種が絶えてしまうことが懸念される。しかし、心配無用。寒い所はオオスジコガネで、暖かい所はスジコガネと見事に住み分けし、これらが出会う機会はほとんどないのだ。今更ながら自然界の巧妙な仕組みにはつくづく感心してしまう。
(平成元年12月)
Date: 2006/01/06(金) No.20


山のおじゃまむし(12)の掲載
山のおじゃまむし(12) 
マイナー害虫、ヒノキカワモグリガ

日本語と英語を組み合わせるとけったいな言葉になる。マイナー害虫なる言葉もそのひとつだ。直訳すれば二流害虫。わかってわからないような言葉であるが、これが我々虫仲間では立派に通用しているのだ。そもそもこの言葉の語源は、スギ、ヒノキの穿孔性害虫としてスギカミキリやスギノアカネトラカミキリが脚光を浴びていたとき、同じタイプの害虫でありながらどうした訳かこのヒノキ力ワモグリガは問題にされなかった。どうもこのことに端を発しているようだ。つまり、前者が主役で、後者が脇役、つまりマイナー害虫という訳だ。そうそう、マイナーといえば中日の落合選手。今でこそ超一流の選手であるが、かつてはマイナーリーグの選手であった。そうなると、このヒノキ力ワモグリガもそのうちに超一流の・・…・。
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ヒノキ力ワモグリガはスギやヒノキの皮の下を加害する。しかし、被害はスギが圧倒的に多い。だから、スギカワモグリガと呼んだ方が馴染み深いかもしれない。名は体を現わすというが、この虫に限ってはそうでもないようだ。幼虫は初め針葉を食べているが、そのうちに皮の下り潜り込み、幹を加害するようになる。つまり、食葉性害虫であると同時に穿孔性害虫でもあるのだ。棄も幹も食べる贅沢虫、恐らくこんな害虫はいないであろう。少なくとも、私には思いあたらない。この虫に加害されても枯れはしない。しかし、加害部にシミができ、しかもその数が多いときているから、材価は著しく低下する。このためスギカミキリ以上のおじゃま虫だという人もいる。それでは何故この虫がマイナー害虫なのか。そう聞かれると返答に困る。
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ヒノキカワモグリガに加害されると、その部位が膨れてヤニがでる。このためスギカミキリの初期被害とよく似ている。かつて、私自身もよく間違えたものだ。そういえば、こんなことがあった。京都で開催されたスギ、ヒノキ穿孔性害虫に関する現地検討会でのこと。全国から集まった虫プロを前に、この虫の被害を説明していたら、A氏から「それはスギカミキリの被害だよ」と言われた。私はそれまでてっきりヒノキ力ワモグリガの被害と思い込んでいただけにショックであった。反面、自信過多となっていた私への反省材料ともなった。私は長い間昆虫と接しているため、どんな虫でもおおよそのことはわかる。例えわからなくても、本などで調べれば何とかなるという自信をもっていた。しかし、この虫のように人の話や本の受け売りだけでは通用しないことを知った。それ以降、どんな虫でも自分で確かめること。これをモットーとしている。そういえば、“かけだし研究員の頃はこうだったなーと昔を思い出したら、初心忘るべからずと無意識に書いてしまった。
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本県にもこの虫はいるにはいる。しかし、被害らしい被害はでていないので、それこそマイナー害虫といえよう。これが九州、四国地方ではマイナー害虫どころか、謹もが認める山のおじゃま虫である。この傾向は岐阜近県でもみられるので、そのうちに本県でも超一流の山のおじゃま虫に昇格するかも知れない。ところで、このおじゃま虫シリーズ。シリーズとはいうものの載ったり載らなかったり不規則である。これは、私の怠慢からではなく原稿が不足している時の穴埋め用、いうなればマイナー原稿なのである。しかし、このおじゃま虫シリーズもいずれはメイン原稿に昇格。そう願ってこれからもせっせと書き続けようと思う。
(平成元年11月)
Date: 2006/01/06(金) No.19


山のおじゃまむし(11)の掲載

山のおじゃまむし(11) 
毒虫中の毒虫、ドクガ

山のおじゃま虫の中には毒虫と呼ばれ、根っから嫌われているものがいる。前にお話したマイマイガもこの部類に入るが、何といっても代表格はドクガであろう。この毒虫の毒は強烈で皮膚に付いたら最後、湿疹ができてふくれあがる。しかも、痒いときているからどうしようもない。事実、私自身この毒虫にやられて散々な目にあっているから間違いない。こんなことから、今回は趣をかえて、山のおじゃま虫であると同時に人様のおじゃま虫でもあるドクガについて話そう。
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ドクガは何でも食べる雑食性だ。だから大発生すると山の木はいうに及ばず、庭木、果樹、時には農作物と手あたり次第食べていく。しかも、悪いことに幼虫期間が8カ月にも及ぶ。このため、長い間ずうっと食べられっぱなしであるし、またそれ以上にわれわれ人間様が、この毒虫の餌食になる機会が多いから始末が悪い。ドクガの幼虫はよく目立つ。黒い体に橙色の横帯。しかも、集団でいるから一層目につく。恐らく誰もが嫌がる毒毛を見せびらかして、自分の身を守っているのであろう。自然界の巧妙な知恵と思わず感心してしまう。ところで、このおじゃま虫、最近とんとお目にかからなくなった。虫で飯を食っている私には少々寂しい気がしないでもないが、こんな虫はいつまでも出てほしくないものだ。とはいうものの、かつてあれほど猛威をふるった毒虫中の毒虫。いつかまた本性をあらわす日がくるであろう。その哨如爾呂い弔。私には見当がつかない。
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20数年前、このおじゃま虫が多治見市に大発生した。当時、新進気鋭?の研究員であった私はいい機会だとばかりにいろいろな実験を行った。普通、実験といえば白衣に白手袋がつきもの。しかし、これでは作業がしにくいとばかりにこちらはランニング姿に素手という軽装。その甲斐があってかよい成果が得られた。その一部は学会でも発表し研究員としての自信もついた。だからドクガは私にとって憎い虫というより、忘れることのできない尊敬すべき虫なのである。ところが、この代償があまりにも大きかった。幼虫の毒毛にやられて、顔、首、胸と肌の露出しているところはすべてかぶれてふくれあがり、おまけに熱がでて寝込んでしまった。小さい項から虫好きであった私は、虫でかぶれるなどとは思っていなかったし、事実そんなことは一度もなかった。それだけにショックであったし、また同時にこの毒の強さに驚いたものである。
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ドクガは時に人の心を傷つけることもある。私がこの虫にかぶれた時、周囲のすすめもあって医者へいった。ところが最初の診断はジンマシンであった。私は今までの経緯を説明してジンマシンではないと話したところ、先生のプライドに傷がついたようで少々おかんむりであった。しかし、そこは人格のあるお医者さん。こういう事例はあまりないので私に勉強させて下さいと頭をさげられた。これ以降、私は患者という名の研究材料。お陰でこの先生と仲良しになった。それにしても、ドクガは医学関係にまで迷惑をかける不屈千万な虫である。
          (平成元年8月)
Date: 2006/01/06(金) No.18


山のおじゃまむし(10)

山のおじゃまむし(10) 
山の根切虫、オオスジコガネ

「こがねむしは金持ちだ……」と童謡でも歌われているように、コガネムシは古くから人気者だ。丸くてずんぐりした体。キラキラ光るはね。ブーンと飛び立つ姿の愛らしさ。これが人気者たる所以であろう。ところが、このコガネムシ、幼虫が農作物の根を食べるため、農家からは根切虫と呼ばれ目がたきにされている。しかも、これだけでなく、この中には山に植えられたスギ、ヒノキの限を食べるものもいる。オオスジコガネだ。ここしばらくは鳴りをひそめているが、かつては本県でも猛威をふるった山のおじゃま虫である。
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このおじゃま虫、いろいろな植物の根を食べる。だから、野外では特定の植物だけを食べるということはしない。ところが、スギ、ヒノキ苗となると話は別で、専らこれを食べるようになる。しかも、この食べ方があらけなく、細根はもちろん主根までも食べてしまう。結果はどうなるか。いうまでもなく枯れてしまう。かつて、朝日村でこのおじゃま虫が大発生したことがある。その被害はさんたんたるもので、植栽されたほとんどのヒノキが枯死し、それは想像を絶するものであった。この荒れはてた造林地を見つめている所有者の姿を思い出すと、今でも陶が痛む。
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成虫もいろいろな植物の葉を食べる。だが、こちらはカラマツの針葉を特に好むようだ。朝日村で発生した時はどのカラマツも食害され、丸坊主となったものも多数見られた。林内に入って木をゆすると成虫がバラバラと落ちてきて、首筋から背中へ入ったり、ポケットに潜り込むなどした。恐らく何十万という数であったであろう。とにかくすごい数であった。このように数が増えてくるといろいろな光景に出会う。よく目につくのが結婚式だ。ところがこの儀式が面白い。1組が結婚しているとそこへ別のオスが近づき、そのオスも結婚しようとする。いや、じゃまをしようとしているのかも知れない。これが、ひどい時にはメス1匹にオスが5〜6匹も群がることもある。この異様な光景を眺めながら、結婚最中のカップルにとってはいい迷惑だなーとニタニタしていた当時のことが懐かしく思い出される。普通、昆虫が大発生するとメスが多くなるものだが、このおじゃま虫はオスが多くなるのかも知れない。
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「飛んで火に入る夏の虫」と言われるように、昆虫類の中には明りに集まるものが多い。オオスジコガネもこの習性の強い昆虫だ。しかし、のべつまくなしに集まるものではない。以前、私はオオスジコガネが灯りにどのくらい集まるかを調べたことがある。多いときはそれこそ何百匹にも達したが、こんなことは少なく、ほとんどの場合は数匹程度であった。しかも、集まるのは日没後1時間くらいの間で、それ以降は非常に少なかった。オオスジコガネが灯りに集まるのは半ば本能的なものである。それなのに集まる時と集まらない時がある。われわれにはわからない何かがあるのであろう。自然とは複雑なものだとつくづく思う。そういえば、未来博期間中に行われた富田サウンドに出かけた時、レーザー光線に多数の昆虫が集まっているのを目撃した。レーザー光線と昆虫。ひょっとしたら色とりどりのレーザー光線にもオオスジコガネがめちゃくちゃ集まるのではないか。ふと、こんな思いが脳裏をかすめた。
(昭和64年1月)

Date: 2006/01/06(金) No.17


山のおじゃまむし(9)の掲載

山のおじゃまむし(9) 
刺さないハチ、カラマツアカハバチ

ハチでも刺さないハチがいる。ハバチ類がそうだ。このハチ、胸と腹の部分が同じ太さでつながり、刺すハチ、スズメバチとは姿、形が全く違うので、誰にでも見分けがつく。ところが、このハチ、刺さないかわりに植物の葉を食べ、時に大発生して大きな被害を及ぼす。一方良ければ片方悪しで、自然は人間様中心には回ってくれないようだ。ハバチ頬の中には山のおじゃま虫が多い。ざっと数えただけでも20種以上いる。しかし、何といってもカラマツアカハパチがスーパーおじゃま虫であろう。
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カラマツアカハバチは、名前からもわかるようにカラマツの葉を食べる。年2回発生し、その間幼虫は集団で針葉を食害する。しかし、食べるのは専ら2年生枝に着いている硬い針葉で、当年枝の針葉は食べない。普通、柔らかい葉の方がうまいと思うが、あえて硬い葉を食べるのはなぜか。もしかしたら、自分に食べ物を提供してくれるカラマツにできるだけ迷惑をかけないように気をつかっているのではないか。前に述べたマツカレハのことがあるので、ついそう思ってしまう。
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このおじゃま虫、普段はほとんど見ることができない。それくらい数は少ないのだ。それがある日突然大発生する。しかも、こうした時は前回述べたマイマイガと同じようにメスだけで繁殖する。だから、虫の数はあっという間に増えていく。こうなると幼虫は当年技の針葉をも食べるようになる。そして、挙げ句の果てが丸坊主にしてしまう。この光景があまりにも強烈なので、ついスーパーおじゃま虫と呼んでしまう。大発生は2〜3年続く。しかし、どうしたわけか突然いなくなってしまう。このことについては長い間謎であった。ところが、これには野ネズミが深く関与していることが最近わかった。つまり、冬期に土中で越冬している蛹を、手当たり次第食べていくのだ。野ネズミといえばこれまた山のおじゃま獣だ。これが、時には有用動物となるから皮肉なめぐり合わせである。
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かつて私は、上宝村に大発生したこのおじゃま虫の被害を見たことがある。カラマツというカラマツは丸坊主となり、これを遠くから眺めるとまるで晩秋を思わせるような光景で、それこそさんたんたるものであった。林内に入れば餌がなくてうろたえている幼虫や、死亡している幼虫がいたるところに見られた。ゴーストタウンならぬゴーストカラマツ林であった。私自身、カラマツアカハバチの被害を見たのはこの時が初めてであった。しかし、初めて見るにはあまりにも強烈であった。駆け出しの研究員であった私は、こんなすごい被害を本当に防ぐことができるのだろうかと、心配したものである。それから20年。今はこの虫を題材にして「山のおじゃま虫」なる原稿を書いているのだから、私自身も成長したものだと思う。
(昭和63年12月)

Date: 2005/11/07(月) No.14


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