*--野平 照雄の雑記帳--*


山のおじゃまむし(24)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(23)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(22)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(21)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(20)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(19)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(18)の掲載  2006/01/06(金)
山のおじゃまむし(17)の掲載  2006/01/06(金)


山のおじゃまむし(24)の掲載

山のおじゃまむし(24)
クリの好きな、クリシギゾウムシ

秋の味覚は何といっても栗が王様だ。ゆでてよし、焼いてよし、中には生のまま食べるのが本当の栗の味だという栗通?の人もいる。栗独特のあのまろやかな味。思いだすだけでも舌がうずく。ところが、時々虫喰い栗に出あうことがある。そして中には白いウジ。こうなったらもう味どころではない。口に含んだ栗も思わず吐き出してしまう。栗を食べた人ならば一度や二度は経験しているであろう。さて、この白いウジ、何の幼虫であろうか。実は前回にも登場したクリシギゾウムシの幼虫なのである。
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クリシギゾウムシは栗の実の大害虫だ。幼虫は栄養たっぷりの栗の実の中に潜り込んで贅沢三昧の生活をする。つまり、この美味しい御馳走を食べて、食べて食べまくるのである。そして、ブクブクに太った幼虫はここから脱出して土中に潜り、寝室(蛹室)を造って眠りに入る。食べた後はお休みというどこかのおえら様のような生活をしている訳だ。この睡眠が不規則で1年から3年以上にもなるものもいる。いったい何のためにこんなに長く眠り続けるのか、どう考えても理解できない。しかし、理解できないからこそ昆虫の世界がより神秘的に映るのである。
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成虫はクリの実を食べない。そのかわり花、葉、果実など植物のあらゆる部分を食べる。しかも、これだけでは満足せず、時々昆虫やクモを襲うらしい。この時、あの長い口が強力な武器となる。狙いさだめた獲物をこの武器で次々と刺し殺し、肉をむさぼり食べる。まるで弱い者をいじめるヤクザのようだ。これが時々仲間同士の抗争となる。これがまたすごい。長いロを槍がわりにして、相手の胸や腹をめがけて突進し、どちらか倒れるまで闘うのである。死闘。まさにデスマッチそのものである。そういえば、プロレスにバトルロイヤルというのがある。狭いリングに多数の、レスラーがあがり、相手を倒しながら勝ち残っていくというプレーだ。普通、ジャイアント馬場のような大型レスラーが勝ち残るように恩われるが、こういうのはたいてい最初に負けてしまう。それではクリシギゾウムシのバトルロイヤルはどうか。小さな容器に何匹もの成虫を入れておくと必ず闘い(共食い)が始まり、弱いものは次々と倒されていく。しかし、このリングでは小さなものから倒されていき、ほとんどの場合勝者は大型レスラーである。大は小を駆逐する。ここでも自然界の掟を垣間見ることができる。
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この虫の幼虫は球果で簡単に採ることができる。しかし、成虫はなかなか採れない。被害の多いクリ園でいくら探しても採れるのはせいぜい1〜2匹だ。私は、30数年間ゾウムシを追い回しているが、野外で採集したのは10匹にも満たない。なぜこんなに少ないのか、不思議でならない。どこかに隠れているのか、あるいは本当に少ないのか、神のみぞ知るである。このことに関し、私は前から土中の蛹時代にモグラやネズミ等に食べられるのではないかと思っている。つまり、土中で長い間眠っている時にこれらの餌となる訳だ。しかし、そうだとすればなぜクリシギゾウムシがこんな不利な眠りをしているのか、今度は別の疑問が生じてくる。自然界の仕組みは複雑だと思う。
(平成3年11月)

Date: 2006/01/06(金) No.31


山のおじゃまむし(23)の掲載
山のおじゃまむし(23)
大、中、小の、シギゾウムシ

よく物を大、中、小にわけて大きさを表わすことがある。例えば大相撲の力士。小錦はいうまでもなく大であるし、旭富士は中くらい。それにあの大横綱千代の富士は誰しも小さいと答えるであろう。それでは相撲界ならぬシギゾウムシ界はどうか。小錦がツバキシギゾウムシで旭富士はエゴシギゾウムシくらいだろうとすぐ答えられるが、千代の富士は強いイメージが大きすぎて咄嗟に思い浮かばない。しかし、体の小さいことからすればやはりチビ(小さい)のチビシギゾウムシ頬あたりであろうか。大相撲フアンである筆者は、ついこんなことを考えてしまう。今回はこの大、中、小のシギゾウムシについて話そう。
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ツバキシギゾウムシは2僂魃曚┐訛腓なゾウムシだ。しかし口が大変長く、休の長さ以上もある。だから太めの小錦というよりノッポの曙と言った方がピンとくるかも知れない。これが以外にワルで、メスは長いロでツバキの実に次々と穴をあけ、卵を産みつけていく。このため、古くから長い口のゾウムシというより、ツバキの害虫として知られているのである。とは言うものの、岐阜県では害虫というよりむしろ珍しい虫で、野外ではあまり見ることができない。私も自分の手で何とか採ってみたいとあちこち探し回ったものの、なかなかお目にかかることができなかった。それをとうとう南濃町で採った。その時のうれしかったこと。長い□に感心しながらしげしげと何回も眺めたものである。また、この虫は長い口を上手に操りながら素早く動き回る。これだけならまだしも、飛ぶときているから驚いてしまう。以前私は八百津町で飛び回っているのを見たことがある。長い口を水平にして飛ぶ姿は、まるで幼い頃見た映画のダンボ(象が空を飛ぶ物語)のようであった。
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エゴシギゾウムシは丁度ツバキシギゾウムシの半分位の大きさだ。だから口の長さは4mmとかなり短くなる。このためか、この虫は小さな実のエゴノキに産卵するらしい。口が短いから小さな実に卵を産むのか、あるいは小さな実に産卵しているうちに口が短くなったのか、その真意はわかりかねるが、いずれにせよ興味深いことである。ところで、以前私はエゴの実200個近くを拾い集め、これから発生する成虫を調べたことがある。ところが1匹も出てこなかった。これでも害虫なのかと首をかしげたものだ。それと同時に本当にエゴの実に卵を産むのかと疑問に思った。チビシギゾウムシの仲間はさらに小さく、いずれも2mm前後である。それこそ顕微鏡の世界の虫だ。大写しにすると体の紋が逢う。間違いなく別種だ。しかし、ロはどれも細くて弱々しい。これで木の実に卵が産めるのかと心配になる。ところがどっこい、彼らは他の昆虫によって形成された虫こぶ(虫えい)に卵を産みつけているのである。つまり木の実のようにふくれた柔らかい果実?に産卵しているのである。昆虫類はいろいろな場面で知恵を働かせて厳しい自然界を生き抜いているが、ここでもその姿を見ることができる。
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千代の富士が現役の頃、土俵上で小錦、旭富士と並んでいるのをテレビでよく見たものだ。ところが、あの小さな体がちっとも小さく見えなかった。やはり小さな体で大きな力士を豪快に投げ飛ばした強いイメージが働いたからであろう。今度は私の標本箱に目を移そう。まず目につくのがツバキシギゾウムシで、次がエゴシギゾウムシである。チビシギゾウムシには日本で2番目に採れたという珍しい種であるにもかかわらず、どう見ても米粒くらいにしか見えない。こちらは間違いなく大、中、小であった。
(平成3年9月)

Date: 2006/01/06(金) No.30


山のおじゃまむし(22)の掲載

山のおじゃまむし(22)  
穴掘り名人、シギゾウムシ

昆虫図鑑を開いてゾウムシ類を見ていくと、真ん中あたりにひときわき口(吻)の長い集団がある。名前はどれも○○シギゾウムシとなっている。シギゾウムシ?。この単語をばらせばシギとゾウムシ。これでわかるかと思うが、この仲間は烏類のシギのように口が細くて長いためシギゾウムシと名付けられたというわけだ。しかし、長さの比は鳥類のシギとは比べものにならない。長いのになると、自分の休以上の口をしているものがいる。こんなに長い口を支える顔も大変だが、それ以上にこのロがじゃまになって素速く動き回ることができないのではないか。こんなことを思ってしまう。鳥頬のシギは水中にいる餌を採るのに長いロが必要であるが、さてシギゾウムシの口はなぜ長いのだろうか。
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シギゾウムシの仲間は現在日本に50数種いる。大きなものは2僂魃曚垢發里いるかと思えば、2mmにも満たない小さなものもいる。しかし、体の大きさは違っても□のつくりはほとんど同じだ。細くて長くて頑強で、表面がつやつやしている。それに口先がみな曲っており、しかもこの曲りは大きい種ほど大きい。変わっているのは口先だ。ゾウムシ類の口先には大きなアゴがあり、これで葉を食べたり木をかじったりする。このため、アゴは横方向に動く仕組になっている。ところが、シギゾウムシは別で縦方向に動くのである。となると、この仲間の大アゴは物を食べる時のものではなさそうである。どうもシギゾウムシの口の長いのは、このあたりと関係がありそうだ。
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かつて私はクリシギゾウムシを飼育したことがある。ある日面白い光景を目にした。1匹のメスが大きなクリの実に口先を突っ込み、この口を中心に自分の体を左右に動かし穴を掘り始めたのである。すると大きく曲った部分の口先は少しずつ中へ入っていったのである。しばらくして口先を抜くと今度は後ろ向きになって尻をそこにあて、ここから産卵管をいれて卵を産み始めたのである。つまりシギゾウムシの口の長いのは産卵するために穴を掘る道具として使われていたのである。シギゾウムシの多くの種は種子に産卵するいうなれば種子害虫である。このために進化した長い口。この口こそ彼等の生活を支える、いや生き延びるための大事な武器なのである。
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シギゾウムシがひとつの穴を掘るのに数時間かかる。これが何十卵分も掘るのだから大変な労力である。娑婆へでてからただ穴をあけて卵を産むだけのメス。子孫を残す手段とはいえ神様は苛酷な労働を与えたものだと思う。そういえば以前私は昆虫標本箱を作ったことがある。その時、シギゾウムシの穴掘りによく似たことを行った。つまり、キリで木に穴をあけたのである。ところが木が堅いため5〜6個あけただけで手が痛くなって腫れてきた。それでも仕方なしにキリを動かしていたら手に豆ができたので、早々に止めてしまった。今思えば私の根気のなさにあきれるとともに、シギゾウムシの忍耐強さには改めて感心してしまう。

(平成3年7月)

Date: 2006/01/06(金) No.29


山のおじゃまむし(21)の掲載

山のおじゃまむし(21)
足が黒くても、アカアシノミゾウムシ

昨年の夏のことである。5年生の娘と謎かけ問答をした。「黒くて赤いものなあーに」と娘。私は即座に「炭」と答えた。「ピッビイー、残念でした。答えはお父さんです」とまた娘。「お父さん?どうして」と私。娘は言う。「お父さんは顔が黒いけど怒ると赤くなるから」と変な答え。得意顔の娘に今度は逆に私が問うた。「それじゃ赤くて黒いものなあーんだ」。娘はしばらく考えていたが、そんなのあるのとギブアップ。「教えてやろうか。それはね、アカアシノミゾウムシの足だよ」と私は言った。「この虫はね、体が3mm位の小さな虫で………」と説明し始めたとたん、娘は「そんなのセコイ、インチキや」と叫んで、部屋から出て行ってしまった。
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ついでに色にまつわる謎かけ問答をもうひとつ。今度は「赤くて緑のものを黄色にするものなあーに」と問うてみよう。答えはこれまたアカアシノミゾウムシである。この虫は体が赤いもの黒いもの、あるいは足の赤いものなど色々いる。これがケヤキの大害虫で幼、成虫とも葉から養分を吸収する。すると葉は緑から黄色に変色し、ひどい時には枯れてしまう。だからこの場合は赤いアカアシノミゾウムシがケヤキの葉に群がり養分を吸収したため、緑の葉が黄色になったという訳だ。娘に言わせればこれまたセコイ謎かけ問答であるが、こうした現象が県下各地に起きているのである。ところが、葉が黄色くなるとこの虫自身も餌としては利用できなくなるので、餓死するものが多数でてくる。このため、大発生の次の年はパタッと数が少なくなる。しかし、このことで種は絶えない。もし逆に毎年、毎年大発生していたらどうなるであろうか。恐らくケヤキは衰弱して病気などが発生し、時には枯れるものも出てくるであろう。そうなるとこの虫自身も餌不足となって生きていけなくなるので、死という大きな代償と引換えにケヤキを守っているのである。ここでも自然界の厳しい姿を見ることができる。
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以前、私はこの虫の体の色を調べたことがある。すると、萩原町では赤いものが多いのに、藤橋村では大部分が黒色であった。どうしてだろうと考えていたら、翌年はこの逆になった。そして、次の年はまた違うというようにその年々で異なっていた。アカアシノミゾウムシが地球上に現れてから数百万年は経っているであろう。この間、自然淘汰を繰り返し、自分の生活に最も適した姿に進化しているはずだ。しかし、こうも休の色が違っているのはなぜか。どう考えても理解できない。この謎は意地悪問答でもなかなか解けそうにない。
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さて、先ほどセコイといって部屋から出て行った娘はよほど面白くなかったらしい。また戻ってきて再び謎かけ問答に挑戦してきた。今度の謎は前とは逆に「赤くて黒いものなーあに」であった。私はもうあきあきしていたので、考えもしないですぐにギブアップ宣言。すると娘はまた得意顔で「答えはアカアシクワガタです」と言った。私はびっくりした。まさか娘の口から虫の名前がでてくるとは想像もしなかったからである。どうも上のオネエから知恵を授かったらしいが、今まで見向きもしなかった昆虫図鑑を開いただけでもうれしくなった。これが虫好きパパの親馬鹿というのであろうか。答えは間違っていたけど「まいったー」と大きなジェスチャーで負けたふりをした。
(平成3年5月)

Date: 2006/01/06(金) No.28


山のおじゃまむし(20)の掲載

山のおじゃまむし(20)
ピョンピョン跳ねる、ノミゾウムシ

「体が丸くて、ピョンピョン跳ねる小さな虫」と言えばノミを想像する人が多いであろう。この言葉はまさにノミの代名詞のようなものだ。ところが、これにふさわしい虫がゾウムシの中にもいる。その名もずばりノミゾウムシ。名前からしてどんな虫かだいたい想像できるであろう。この仲間は現在30種近くが日本にいる。どの虫も5mm以下と小さく、ピョンピョン跳ねる。だから後足の太ももは異常に発達してすごく太い。どうみてもスマートな虫とはいえない。しかし、姿、形は不格好でも、この太もものお陰で厳しい自然界を生きぬいているのだから、まさに黄金の太ももなのである。とは言うものの生きるためには食物が必要。この食物が樹木の葉ときているから、さて困った。
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ノミゾウムシの中には葉に潜り込んで葉肉郡を食べるものが多い。とくに柔らかい新葉が大好きなので、新芽の出る春先によく見ることができる。ここで育った幼虫は、やがて成虫となり沙婆にでて、今度は外から葉を食害する。いうなれば親子で家主を徹底的にいじめているわけだ。最近目につく赤いケヤキや、穴だらけの葉をした大きなエノキ、それに葉の伸びの悪いコナラ等はこれらの仕業なのである。しかし、こうした被害になるのはごく稀で、普段はほとんど問題にならない、それこそとるに足りない小さな虫けらなのである。だから困ったというのは、こうした披害が発生した時に困るという何とも訳の分からない困ったなのである。
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ノミゾウムシの成虫は歩くのが苦手だ。あの太い足がじゃまになって歩けないからである。ではなぜ生活に支障をきたすような太い足になったのか。答えは簡単。外敵から身を守るためなのである。私は長い間ゾウムシを採り続けているが、今でもピョンピョン跳ねては逃げられてしまう。このように自然界でいつも逃げ回っているのである。ノミゾウムシは何の武器も持たない小さな虫だ。これが今日まで何十万年、いや何百万年も生き続けているのはこの黄金の足と、幼虫が葉の中に潜り込んで身を隠すというわざを身につけたからである。ここでも昆虫の生き延びるための知恵を垣間見ることができる。
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昆虫の名前は地名や人名にちなんだものが多い。例えばギフチョウ。これは岐阜県で初めて発見されたのでつけられたものだし、ノヒラツツキクイゾウムシは発見者である私の名前がついたものである。もう十数年も前になるが私は御岳山麓でノミゾウムシの新種を見つけたことがある。“ノヒラノミゾウ”だな。だがまてよ“野平(は)飲み蔵(助)”ではないか。いささか抵抗のある名だななどと勝手な想像をしていたら、他の県でも発見されて別名がついてしまった。今思えばノヒラノミゾウムシでもよかったかなと思っている。
(平成3年4月)

Date: 2006/01/06(金) No.27


山のおじゃまむし(19)の掲載

山のおじゃまむし(19)
リンゴとクリの、アナアキゾウムシ

かつてザ・ピーナツという双子の女性歌手がいた。今でいうなら中山美穂級の超人気歌手で、恐らく40半ばの男性は胸を熱くしたのではないかと思う。私も熱烈なファンでレコードも買ったし、テレビの前ではよく釘づけになったものだ。それにしてもこの2人、本当によく似ていた。顔は言うに及ばず、体つきからしぐさまでほとんど同じであった。だから、どちらが姉でどちらが妹かよくわからず面食らったものだ。さて、前置きはこれくらいにして本題に入ろう。実はゾウムシの中にもこのザ・ピーナツのようによく似たものがいる。しかも、何種もいるのだ。しかし、おじゃま虫となるとクリアナアキゾウムシとリンゴアナアキゾウムシであろう。
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この成虫は姿、形が本当によく似ている。恐らく初めて見る人には区別がつかないであろう。私も今でこそわかるが、長いあいだ間違って認識していた。それではどこが違うか。その区別点を教えてあげよう。少し専門的になるが、ゾウムシのように体の硬いものには羽の付け根部に羽を支える小さな器官(小楯板という)がある。この形が丸いか、丸くないかが第1点。2点目が羽の後端部がとがっているかいないか。そして3点目が、もうよそう、顕微鏡の世界での話なのだから。しかし、私は仕事上顕微鏡を覗かなければならない。もう少し覗いてみよう。なるほど大写しにするとよくわかる。これはクリアナアキゾウムシでこれはリンゴアナアキゾウムシだ。あれあれ、こいつは両方の特徴をもっているぞ。ひょっとしたらあいの子では?。ということは、この両種が結婚したことになる。こんなことってあるのだろうか。またまた私の腹の虫がうずく。
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幼虫もよく似ている。むしろ成虫以上かも知れない。しかし、食物は全く違う。名前のとおりクリアナアキゾウムシはクリの根を食べ、リンゴアナアキゾウムシはリンゴやナシ、サクラの根を加害する。しかし、この両種とも元来森林昆虫でそんなに多い虫ではなかった。むしろなかなか採れない珍しい種であった。私自身、10数年追い回してもなかなか手にすることができなかった。ところが、クリ園やリンコ園が増え、しかも生育のよい品種が栽培されるようになってから急に多くなってきた。多いというより大害虫にランク付けされたのである。森林を捨ててクリ園やリンゴ園に定住したこの両者。生き延びる戦略とはいえ、そのかわり身の早さには思わず感心してしまう。
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私がリンゴアナアキゾウムシを初めて採ったのは30年も前の昭和35年7月、高根村の野麦峠であった。丁度、ザ・ピーナツの全盛期で、「情熱の花」という歌が大ヒット中であった。当時、私は高校2年生。恐らくこの歌を口ずさんで採ったのではないかと思う。それから11年後、今度は美濃市でクリアナアキゾウムシを採集した。しかし、ザ・ピーナツはもう過去の人で、ほとんど忘れられていた。私も熱がさめ、この時は森進一の「盛り場ブルー」を盛んに歌っていた。
(平成3年1月)

Date: 2006/01/06(金) No.26


山のおじゃまむし(18)の掲載

山のおじゃまむし(18)
別名ビール虫、オオゾウムシ

暑い日のビールは本当にうまい。ゴクゴクゴクとコップにそそぐビールの音。ググッと飲み込むあの感触。ビール好き人間にはたまらない魅力だ。だから、私もついつい飲み過ぎてしまう。そして、翌日………。それでもやめられないのだからビールは不思議な水だ。ところで、ビールが好きなのは人間だけではない。昆虫の中にもたくさんいるのだ。あれに、あれに、あれ、ざっと数えただけでも20を越える。しかし、何といってもその最たるものはオオゾウムシだろう。ビールの好きなオオゾウムシ。何となく絵になる昆虫ではないか。
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ところが、このオオゾウムシ、実は大変嫌われものなのだ。ビールを飲むからではない。木に大きな穴をあけるからだ。しかも、スギ、ヒノキ、マツはいうにおよばず、ブナ、ケヤキ、ナラなど木という木はすべて加害する。だから、丸太の集積土場に発生すると大変なことになる。10数年前、県下各地の土場でこの被害が大発生した。私のもとへどうすればよいかとの問い合せが殺到した。しかし、良い手だてはない。歯切れの悪い回答をしていたら、ある業者から、何をやっているのだと強いお叱りをうけた。そういえば、この虫のお陰でこうしたお叱りを20数年間もうけ続けている。だから、私が受けた精神的被害は相当なものだ。しかし、今のままでは、私の被害はまだ続きそうだ。こうなれば焼け糞だ。いっそのこと、ビールで防除を。こんなことを思ってしまう。
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さて、またビールの話に戻ろう。いま、ビール戦争と呼ばれている。店頭にはいろいろなビールが山積みされ、各社とも味の違いを盛んに宣伝している。しかし、私には同じ味にしか思えない。だから、どのビールでもガバガバ飲む。ところが、オオゾウムシは違う。大変なグルメで、どれでもよいというのではない。次々と売り出される新製品より、昔ながらの黒ビールが大好きで、これには全く目が無いのである。贅沢といえば贅沢だし、ある面から見れば品のよい酒飲みなのかも知れない。自分と比べると、ふとこんなことを思ってしまう。そういえば、以前私はビールを餌にして松林のオオゾウムシ調査を行ったことがある。調査の途中、自分が飲むのならともかく、虫にやるのはもったいないとのケチ心が生じ水で薄めて使用した。すると、とたんに捕獲数が少なくなり、調査をやり直したという苦い経験がある。やはり、オオゾウムシも水で薄めたビールはまずいようである。
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オオゾウムシは休が大きい。それに、鼻が太くて長い。だから、子供たちの人気者だ。私も小さい頃よく採ったし、飼育もした。しかし、飛ぶ姿を見たことがない。飛ぶどころか動作も鈍い。羽があっても、飛べないゾウムシ。私は長い間こう思ってきた。ところが、10mの高さに仕掛けた誘引器でオオゾウムシが何匹も採れ、飛び回ることがわかった。ビールを飲んで酔っ払い飛行するオオゾウムシ。どんな飛び方をするのだろうか。この姿を想像すると何とも滑稽だ。やっぱりオオゾウムシは絵になる昆虫だと思う。
(平成2年11月)

Date: 2006/01/06(金) No.25


山のおじゃまむし(17)の掲載

山のおじゃまむし(17)  
昆虫界のピノキオ、ゾウムシ

人間誰しも無性に好きなものがある。筆者で言えばゾウムシだ。そう、あの口の長い小さな虫だ。なぜ好きか。そう問われても返答に困る。とにかく好きなのだ。長い口(正確には吻)。ごつごつした体。異様に光る肌。思い浮かべるだけでも胸がわく。それに、彼等の世界は神秘的だ。覗けば覗くほどこのゾウムシ病?に陥ってしまう。ゾウムシ病に取りつかれて30年。よく飽きもせずにゾウムシを追いかけてきたものだとつくづく思う。ところが、私の好きなゾウムシの中にも山のおじゃま虫と呼ばれるものが何種かいる。親愛なる我が友を悪者扱いにはしたくないが、このシリーズを書く以上避けては通れないので、しばらくはゾウムシについて話そう。その前にちょっとゾウムシの紹介を。
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ゾウムシは仲間が多い。日本だけでも約千種。これが世界となると5万種以上にもなる。しかも、まだこの2〜3倍はいるというから驚きだ。数が多いと住み家も千差万別だ。葉上、材内、花芽、果実。こんなのはごく普通で、中には土中で一生をすごすものがいるし、水中を生活の場としているものもいる。大きさもまちまちだ。大きいものでは3cm、小さなものでは2mmに満たないものもいる。こんなのは当然顕微鏡の世界の虫だ。そうそう、大きさといえばこの仲間、メスが大きくオスが小さい。だから、結婚儀式をしている光景は、まるで親が子を背負っているようにみえる。こういうカップルを昔からノミの夫婦という。しかし、ノミが少なくなった現在では、むしろゾウムシ夫婦と呼んだ方がわかりやすいかもしれない。
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ゾウムシのロは象の鼻のように長い。だから昆虫界のピノキオだ。しかし、長さはまちまちだ。顕微鏡で見てみよう。小さな虫でも大写しにすると迫力があるし少々不気味だ。米粒ほどの虫でもちゃんと長いロがある。太いのも細いのもある。どれも鋼のように頑強で、先には鋭い歯がついている。中にはカバのロのような形でとてもゾウムシとは思えないものもいる。これでもゾウムシなのだから見れば見るほど不思議だ。ちょっと変な気を起こしてあそこをみてみよう。これはオス、これはメス。あれ、こいつはメスばかりでオスがいないぞ。そう、ゾウムシにはメスしかいないものもいるのである。顕微鏡を覗いているとこの病気はますます重くなっていく。
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あの偉大な漫画家の故手塚治虫は少年時代オサムシが大好きだった。漫画家を志してもこれが忘れられず、とうとう自分のペンネームにしてしまった。つまり、オサムシのシを消してオサム(治虫)としたのである。私もこれを真似て自分の子が男だったら象虫(しょうむ)にしようと、冗談ながら考えたことがある。残念ながら3人とも女だったため実現しなかったが、今思うと馬鹿なことを考えたものだと苦笑してしまう。そのかわり「ゾウムシ、ゾウムシお口が長いのね。そうーよ○○ちゃんも……‥」と替え唄の童謡をよく歌って聞かせたものだ。親の愛情は子に通じるという。さて、その子供たちはどうか。ゾウムシどころか大の虫嫌いで、姿を見ただけで逃げ回る。どうも親の愛情も虫が材料では通用しないようである。
(平成2年9月)

Date: 2006/01/06(金) No.24


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